失語症者向け意思疎通支援者養成事業とは

 

 当宮城県でも、昨年度より「失語症者向け意思疎通支援者養成事業」が開始され、今年度からは、「支援者養成講座」を開催いたします。  

 では、「失語症者向け意思疎通支援者養成事業」とは何でしょうか。

 

 これは、各都道府県において、その県の言語聴覚士(ST)が中心になって失語症の方の意思疎通のお手伝いをしてくださる支援者さんを養成する、という事業です。我々STが、失語症の方の支援にご興味のある市民の方々に、失語症の方とのコミュニケーション方法をお伝えし、一緒に練習していきます。定められたカリキュラムを受講した市民の方は「支援者」として県に登録されます。この支援者さんは、失語症の方の元へ行っていただき、その失語症の方が行きたいところに一緒に行って、周囲の方々とのやりとりのお手伝いをします。

 

 この事業のポイントは、我々STが支援者となるのではなく(なってもいいですが)、市民の方に、失語症とは何か、失語症の方のコミュニケーション特徴は何か、どうやってその特徴をつかむか、どうやってコミュニケーションをとるか、ということをお伝えする、ということです。  

 

 この事業は、平成30年度から、各都道府県の必須事業となりました。つまり、どの都道府県でもこの事業が行われており、全国どの都道府県にお住いの失語症の方でもその県でこの行政サービスを使うことができます。  

 

 失語症の方とのコミュニケーション方法は一つではありません。字を書いたり、絵を描いたり、ジェスチャーしたり、伝え方はいろいろです。失語症の方の伝達手段も、漢字を一部書いたり、絵を描いたり、表情だったり、本当にそれぞれです。普段、病院や施設などで失語症の方のリハビリテーションを実施しているSTも、それらの方法を駆使して失語症の方とコミュニケーションをとっています。うまくいったり、いかなかったりすることもあります。このような我々の臨床経験を、市民の方に伝えることができるのか、本当は我々も不安でいっぱいです。  

 

 でも、失語症の方も「地域でその人らしい暮らしができる」ことに尽力できるのは、やはり、STとしては、喜ばしく、なんだか心が温かくなるのを感じます。  

 

 STの皆さん、このような事業がすでに県内で始まっていることをご周知ください。そして想像してみてください。ご自分が担当している失語症の方が、病院を退院し、地域に戻って、医療介護従事者以外の地域の方と一緒に、外出したり会話を楽しんだりする様子を。なんだか新しいと思いませんか?ぜひ、ご自分が担当している失語症の方が、この事業で養成された支援者さんに支援してもらってください。

 

 もちろん、うまくいくこと、心が温かくなることだけではありません。足りないこと、不十分なこと、不手際なことはたくさんあるでしょう。今後、失語症訓練の専門家であるSTの皆さんからはたくさんのご意見をいただきたいと思っています。そうやって、この事業を一緒に構築していきましょう。STの皆さんが思い描く支援者養成を一緒に実現していきましょう。  宮城県での失語症者支援は本当に充実している、と言われるような支援を、一緒に行っていきましょう。  

 

 そして失語症をお持ちの皆さん、支援に興味のある皆さん、このような行政サービスがあることを知り、活用し、参加してください。この事業は、「失語症」という「ことばの出にくさ」があることを、たくさんの方々に知っていただき、支援者さんになっていただくための事業でもあります。ぜひ、このサービスを活用し、広めていきましょう。  

 

 誰でも、「地域でその人らしい暮らしができる」こと、これが私たち宮城県言語聴覚士会の一番の願いです。

 

令和2年6月

宮城県言語聴覚士会 会長  遠藤 佳子